らくごらく〜落語は人生の万能薬〜

中学1年生の時、初めて「明烏」を聴いてから、落語に魅入られ、幾度となく落語に救われてきた不肖私の"布教活動"的ブログ

「猫の皿」

出囃子「昼飯(ひるまま).」

といえば桂枝雀師匠

残念ながらお亡くなりになっておりますが

一説には「ふたなり」の稽古を

していたとか…

「池田の猪買い」「阿弥陀池」「幽霊の辻」

「地獄八景亡者戯」など

とにかく面白くて

どこか憎めない、人間の足りない部分

のようなものが感じられて

私は非常に好きな噺家さんです。

芸能界にももちろんファンが多く、

ダウンタウンの松本さんも

枝雀師匠の落語を

毎晩のように聴いてらっしゃるそうですね。

 

さて、今回のお話は

「猫の皿」でございます。

f:id:mercyman:20200212065758j:image

 

NHK落語名人選(2) 五代目 古今亭志ん生 猫の皿・唐茄子屋

NHK落語名人選(2) 五代目 古今亭志ん生 猫の皿・唐茄子屋

 

おそらく

寿限無」「饅頭怖い」「目黒のさんま」

などに比べてマイナーなお話で、

聞いたことがない方が多いと思いますので、

先ずはあらすじをご紹介させていただきますが…

 

えー…道具屋さんという商売がございまして、

只今のご商売で例えますとブックオフの様な

中古転売業とでも申しますか、

 

方々から「これは…」と思う物を

目利きでもって見定めて

自分の店へ買ってきて

そこへ幾らか値を足して売る

 

落語の世界には

頻繁に登場する

江戸のお仕事の一つでございます。

 

もっとも近頃は

メルカリなんてアプリがあって

誰でも簡単に道具屋になれます。

そう、悪く言えば"せどり"

つまり

売り物を買って、値上げして転売する

 

そんな「道具屋さん」が

主人公のお話で…

 

道具屋というのは

掘り出し物を見つければ、これはもう

たいそうに儲かる商売ですが

 

この掘り出し物というのが

なかなか見つからない。

ただでさえ珍しい掘り出し物に加えて

それを見抜く"目利き"の目がないと

そもそも

どれが何だかさっぱりわからない

 

このお話の主人公は

そんな道具屋さん。

と言っても「火焔太鼓」や「道具屋」のような

店を構えて物を置くタイプの道具屋

ではなく、

 

旅をしながら全国津々浦々

掘り出し物を見つけては安く買い

江戸に戻っては高く売る

 

または、

道具屋さんに品を流す

仲介の様な商売をする

「旗師」と呼ばれる職の人で、

 

この「旗師(はたし)」も

志ん朝師匠は

「安い銭をはたいて買い付けるから、はたし」

とおっしゃっていたり

談志師匠はそもそも

字が「果師」だ

とおっしゃっていたり

様々聞き比べるとまた

面白いですが、

 

さてこの「猫の皿」

本編に入る前に、オススメの入り口の

ご紹介を…

 

談志百席 「猫の皿」「寛永三馬術 愛宕山の乗り切り」

談志百席 「猫の皿」「寛永三馬術 愛宕山の乗り切り」

 

 

 

タイガー&ドラゴン 完全版 Blu-ray BOX

タイガー&ドラゴン 完全版 Blu-ray BOX

 

正直、タイガー&ドラゴンから入れば

たいていの人は落語に興味を持ちます

 

そういえば最近また

ぶっさん、もとい

小竜、もとい

岡田さんがCMで

見台を置いて落語のような事を

されてましたね。

(雰囲気的には講談ブームに乗っけた感

でしたが)

 

さて、いよいよ本編

この旗師の男

 

噺家さんによって様々演出や設定は

変わりますが

 

大筋で言えば

掘り出し物を探して旅をしてみたが、何も見つからず途方に暮れている

ところから噺が始まります。

 

ふと立ち寄った茶店でお茶を飲んでいると

そこに猫がいる

これもまた、様々な演出パターンがありますが

基本的に猫が嫌いな旗師の男は不運も重ねて猫にまで文句を言いだす

 

この辺りも、お茶の話や景色の話

だんごの話から身の上話

様々なアレンジの方がいますが

ふと見ると猫がご飯を食べるのに使っている器が

絵高麗の梅鉢という超高級な掘り出し物

 

当時10枚揃いで千両

1枚でも200両はくだらない

300両でも買い手がつく代物

という説明は

どなたも多少の言い換えはあれど

だいたい同じ価格帯で

変わりありません。

ちなみに

1両が幾らくらいかという話には

たくさんの正解がありまして、

時代の移り変わりや場所、人、物

どう換算するかによって差がありますが

だいたい1万円〜10万円の間のいくらか

だそうです。

日本銀行金融研究所貨幣博物館 - お金の歴史に関するFAQ(回答)

この梅鉢を上手く騙し取ろうとする

それが猫の皿の「転」に位置する

話の佳境でございます。

 

猫が嫌いなはずの旗師は

急に猫を猫っ可愛がりしだして

猫と一緒に、猫が使ったその皿を

持って行ってしまおうと

茶店のお爺さんを騙しにかかりますが…

https://youtu.be/dIuKhrjNwGQ

 

正直、古典落語なので

サゲまでバラしたところで

どうって事は無い、私だって

噺は重々承知の上で

何度も聞いているくらいなので

書いてしまっても構わないんですが、

今回書きたいお話はここからなので、

話の顛末はお聞きになってのお楽しみ

という事で、是非聞いてみて頂きたいと

思いますが、

 

私が、この猫の皿の

一番 面白がっている部分は

猫の態度です。

 

人によって、茶店の猫は

旗師になつくパターンと

全くなつかないパターン

があり、それによって笑える場所や

話の進み方が変わって来るのですが、

 

旗師は誰がやっても

基本猫は嫌いな人物として描かれます

それは、梅鉢欲しさに

嫌いな猫を可愛がる

人間の浅ましくも憎めない

どうしようもなさ

と言いますか、つまり、欲が

面白くなるように

という、"フリ"の為です。

 

基本的に、落語に限らず

大抵の物事は

前半で何かをふっておいて

後半でひっくり返す

という構造をとります。

 

なぜなら人がそれに

惹かれるからです。

 

そして、お爺さんですが、

首尾一貫して人物像は変わりません。

つまり騙し合いの面白さ

終盤からサゲにかけての

この話の「本題」なのですが、

 

このシンプルな構造だからこそ

「猫」の仕草が面白い。

つまり、何が言いたいのかというと

お爺さんは、どこまで猫を利用しているのか。

という事です。

お分かりになりますでしょうか。

 

えほん寄席 馬力全開の巻 (CDつき おもしろ落語絵本)

えほん寄席 馬力全開の巻 (CDつき おもしろ落語絵本)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2008/10/08
  • メディア: 大型本
 

 

 

柳家小三治師匠の「猫の皿」では

猫は旗師に自ら愛想を振り撒きます

 

しかし、猫のパブリックイメージからすると

猫は勝手で懐かないものです

 

実際、懐かない猫のパターンもたくさんありますし

本物の猫は

普通に人に懐くので、

一見猫の仕草なんて、その場、その時の

ちょっとした変化や

 

話の中に笑いや展開を作る為の

ちょっとしたパーツにしか過ぎない

と思ってしまいますが、

思い出して下さい。

サゲを聴く限り、茶店のお爺さんには前科があります。

 

という事は

お爺さんはハナから承知で

仕掛けてきている事になります。

 

旗師が品物を目利きするように

お爺さんは旗師を

目利きしていたのでしょう。

それが証拠に

大抵の猫の皿では、旗師が声を掛けても

お爺さんは直ぐに現れません。

 

あのジジイは、極悪人なんですw

まるで

ビートたけし版 座頭市 の

"クチナワの頭"です。

 

自分には

物を見る目も

きれる頭もありながら、

茶店で地べたに罠をしかけて

猫を撫でながらを待ち構える…

 

旗師が高麗の梅鉢に気付くのも

必ず

「ふと見ると」

なんです。

最初からそこにあったわけではないんです。

 

コイツは釣れると踏んだ相手にだけ

あのをちらつかせて

上手く3両騙しとる。

 

そしてその悪意が最大限現れるのが

客に懐く猫です。

 

笑いを重視する噺家さんの

あまり旗師に懐きません。

最初から威嚇したり引っ掻いたり

最後はオシッコまでしていきます。

 

しかし旗師とお爺さんの騙し合い

重きを置く噺家さんの「猫の皿」には

お爺さんによって、よく調教された

峰不二子のような猫が登場します。

 

この「猫の皿」

サゲは

「その皿で猫に飯をやりますと、

時々猫が 3両に売れるんです」

ですが、その奥に

お爺さんが猫を被って人を喰う

という、まるで怪談のような

オチが隠されているんです。

 

こんな所も、色んな方の話を聞き比べると面白いところです

同じ話の同じキャラクターを

登場させているにもかかわらず

性格や性質の強弱から

時には国や性別も変わる。

だから落語が好きな人は古典が好きなんです。

 

是非、猫の皿、お聴き下さい。

 

 

なんなら座頭市もご覧ください。

御承知の通り

ビートたけしさんも落語をされる方

「人情八百屋」にも

味があって、志ん生を垣間見て

流石だなあと感動しました。

落語の要素を取り入れている

と思って見ると、色んな作品や番組で

チラチラ見えるモノがありますよね。

 

座頭市 <北野武監督作品> [DVD]

座頭市 <北野武監督作品> [DVD]

 

 

AKIRA LINE stickers | LINE STORE
スタンプも作っております。

f:id:mercyman:20200217082813j:image